スタッフ日記

私は、一般の動物病院で働きながら大学病院で研修もさせていただいていました。
先日、久しぶりに大学病院を訪れて、脳外科の手術を見学させてもらいました。
小型犬であったため、脳は小さく、そこの一部にできた腫瘍を摘出していました。
手術用の顕微鏡を駆使しながら、正常な脳神経を傷つけない様に少しずつ腫瘍を摘出するのは、普通の手術以上に緊張感がありました。
脳腫瘍の手術をするには、知識や技術も必要ですが、物理的条件のハードルがとても高いのだと学びました。



・MRIを持っていなければできない。
当たり前のことですね。
まず、MRIがないと脳腫瘍の把握ができません。
そして、手術をする上で事前の術前計画は非常に重要になります。
脳にも大きな血管が走っているので、頭蓋骨に穴を開ける時などに誤って傷つけてはいけません。
どこを切ってどの様に腫瘍まで辿り着くのか、腫瘍はどのくらいの大きさなのか、しっかり計画を立てなければなりません。
もちろん術後にもMRIを撮って、腫瘍がどの程度取れたのかの確認もします。

・専用の器具や機材が必要
MRI以外にも神経に損傷を与えずに腫瘍を吸引する超音波吸引装置や高性能電気メス、手術用顕微鏡、頭蓋骨を削るドリル、脳外科専用器具など非常に高価な道具がたくさん必要です。
・マンパワー
それらの機械を動かしたり、助手としてサポートしてくれる人手が必要になります。
・放射線治療器
皮膚などの腫瘍であれば、腫瘍の周りを余裕を持って切り取りますが、脳の腫瘍の場合は、周りの正常な脳細胞も一緒に取ってしまうという訳にはいきません。
目で見える範囲でキレイに取れたとしても、腫瘍細胞は残ります。
残った腫瘍細胞は、スピードの差こそあれ、再び増殖しますから、手術後は放射線を照射し、腫瘍の増殖を遅らせる治療が勧められます。
放射線治療の装置を所有している施設は限られるため、他の機材がそろっていて手術だけ行なっても、また別の施設に行かなければならない可能性が出てきます。
抗がん剤治療は、人の方では腫瘍の種類により実施されますが、脳腫瘍に使用する抗がん剤が非常に高価であり、動物の医療では現実的ではありません。
そのため放射線治療の重要性も高くなります。
結果的に脳腫瘍の手術は、現時点では一般診療施設が行なうことはとてもハードルが高く、ごく限られた施設でのみ行なわれます。
もちろん、まずは診断が重要であり、なんでもかんでもMRIを撮ればいいというわけではありません。
ある程度の絞り込みは、特に特殊な道具を必要とせず、知識があれば普通の動物病院で行なうことができます。