疾患紹介

愛知県あま市、名古屋市、大治町、清須市、津島市、稲沢市、愛西市、三重県の皆さまこんにちは。
愛知県あま市のあま動物病院、獣医師の関です。
今回は猫伝染性腹の膜炎(FIP)について解説いたします。

猫伝染性腹膜炎(FIP)は数年前までは、猫にとって致死率99.9%とされるほど深刻な病気で不治の病とされていました。
ですが、人のコロナウイルスが猛威を振るったことで、FIPの治療も大きく進歩しました。
現在では、十分に治る可能性のある疾患となっています。

また、これまでは非常に高価な薬を使用するために、治療も高額になっており、最後まで治療が継続できない飼い主さまもおり、途中までは良かったのに症状が再燃してしまったり、寛解が得られないまま亡くなってしまうこともあり、飼い主さまも私たちも悔しい思いをすることもありました。
しかし、世界的な薬の開発と治療法の研究が進み、治療の金額も少しずつ下がってきています。
私たちは、最新情報から治療成績が良く、これまでよりも治療コストの抑えた薬を用いた治療をおこなっています。
検査を含めた治療費が、およそ30~50万円ほどで可能となってきています。(体重や症状により使う薬の量、支持療法の有無、検査の頻度が変わるため診療金額に大きく幅が出ます。)

この大きな災難を乗り越えて、これからも猫ちゃんとの幸せな生活が送れるように、私たちも力を発揮し、皆さまの支えになりたいと考えています。


目次

1. FIP(猫伝染性腹膜炎)の症状とは?どんな症状がある?

2. FIPの原因について

3.  FIPの診断について

4.  FIPの治療方法について

5. 当院のFIP治療について


1. FIP(猫伝染性腹膜炎)の症状とは?どんな症状がある?

FIPは猫にとって深刻な病気で、全身性の血管炎や肉芽腫性病変が生じることで様々な症状が現れます。
食欲低下
元気がなくなっていく
高体温:FIPの最も一般的な症状の一つは発熱です。通常猫ちゃんは38度台が平熱なので、人が触ると暖かくは感じますが、耳や体を触るといつもよりも熱く感じます。動物病院での検温では39度台や高いと40度を超えます。
体重減少:食欲が低下することが多いため、体重が減少します。ただし、腹水や胸水が溜まることがあるため、この場合には体重は増えます。
黄疸:耳の内側や、白目の部分、口などの粘膜が黄色っぽくなります。
下痢、嘔吐:消化器症状も出やすくなり、継続します。
お腹がふくらんできた:腹水の貯留で、お腹が張ってきます。
呼吸が苦しそう:胸水が溜まると肺が膨らめなくなり、呼吸がうまくできなくなります。
神経症状:けいれん発作、運動失調、性格の変化、異常な行動など
眼の炎症:ブドウ膜炎という眼の炎症が起こることがあります。充血や眼の濁り、眼の色の変化など

症状により、腹水や胸水が溜まるウェットタイプ、お腹の中に炎症による組織の塊(肉芽腫)ができたり神経症状や眼の症状が出るドライタイプ、両方の症状が出る混合タイプに分けられます。


2. 猫伝染性腹膜炎(FIP)の原因について

FIPは「猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)」と呼ばれるウイルスによって全身性の血管炎肉芽腫性病変などが引き起こされる疾患です。

このウイルスの起源は「猫コロナウイルス(Feline coronavirus:FCoV)」とされています。猫コロナウイルスは、飼い猫から野良猫まで多くの猫に感染しています。病原性は低く、軽い下痢を起こすことがある程度で、ほとんどの場合は無症状で感染が終わります。

しかし、一部の猫(FCoVに感染している猫の12%)では、FCoVが突然変異し、病原性の高いFIPVに変わります。
この突然変異により、FCoVは猫の健康と命を奪う高病原性のウイルスFIPVとなり、FIPVに対する免疫応答がうまくいかないと、猫は猫伝染性腹膜炎(FIP)を発症します。FIP発症猫の70%は1歳未満です。

FCoVからFIPVへの変異は、ストレスや他の要因が関与する可能性がありますが、まだ正確な原因は解明されていません。
したがって、FIPVへの変異を予防する確実な方法は存在しません。

ですが、感染のリスクを最小限に抑えるためには、猫コロナウイルス(FCoV)に感染することを極力予防することです。
FCoVは主に感染している猫の唾液やウンチから排出され、口や鼻から侵入して感染が広がります。
特に多頭飼育の場合、猫同士の接触機会が多くウイルスが広まりやすいこと、1頭当たりのトイレの数が不足しやすいこと、猫同士の関係性によるストレス、1頭当たりの生活面積が小さくなるストレスなどからFCoV感染とFIP発症リスクが高まります。

一方で、猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)は糞便から排出されないため、猫から猫への感染はほとんど起こりません。
また、FCoVやFIPVはヒトに感染することはないため、人間からの感染リスクもありません。

FIPの予防には限界があり、感染症の進行が始まる前に早期の診断が重要です。
感染症の症状を疑う場合、獣医師の診察を受け、適切な検査による診断とエビデンスに則った治療を行うべきです。


3.  猫伝染性腹膜炎(FIP)の診断について
4.  FIPの治療方法について
5. 当院のFIP治療について
はまた次のページで解説します。